私好みの新刊 20218

『海と川が生んだたからもの』(かがくのとも3月号) 

                 堀内孝/文・写真 牧野伊三夫/絵 福音館書店 

 東北・宮城県にある北上川が舞台である。河口にはヨシ原が茂る広大な
群生地があった。秋になると一面に小麦色の景色が広がる。著者は、「こ
んな雄大で、すがすがしい風景を見るのがはじめてでした。」と振り返る。
何度もこのヨシ原に通ううち、広大なヨシ原が音を立てて燃えている場面
に直面する。丈夫なヨシを育てるために、他の植物の増殖を防ぐために毎年
行われている行事である。
1か月もするとヨシはぐんぐんと新芽を噴き出す。
もちろん、ヨシ原はたくさんの小鳥や虫たちの格好の棲み家だ。ヨシ原に棲
むたくさんの小鳥や昆虫類が紹介されている。朝早くから、シジミ採りの船
も出入りする。ヨシ原には魚介類も多い。それに何といっても刈り取られた
ヨシは、昔からかやぶき屋根の材料になっていた。今も、神社やお寺では使
われているという。

 そんなある日、ヨシ原は大地震に見舞われた。大きな津波が押し寄せた。
建物はこわれ、橋は流され、田んぼに漁船が横たわった。
2011311日で
ある。ヨシ原はいっぺんにがれきの浜になった。それに地盤沈下も起きてヨ
シ原には海水がかぶっていた。干潟の生き物や植物も流されてしまった。も
う、ヨシ原は、震災前の自然にはもどらないとだれしも思った。しかし、地
域の人々の力で、流木やがれきの片づけが始まった。ボランティアも片づけ
に駆け付けた。やがて、中学校の生徒たちでヨシ苗の植え付けが始まった。
自然の力でだんだんヨシ原は回復してきた。
2017年には緑一面のヨシ原にな
った。野鳥やチョウ、植物も帰ってきた。スズキの釣り人も増えてきた。シ
ラウオ、ハゼ、ウナギなども取れるようになり漁業も回復してきた。タヌキ
や二ホンジカなどの大型の動物も目にするようになった。地元の小学校では、
卒業証書にヨシで作った和紙を使用し出した。ヨシ原の被害から
10年で7
までヨシが回復してきたという。

〈ヨシ原の再生にかけた人々の懸命な努力と、自然のたくましい回復力〉に
著者は感動する。近くのヨシ原の姿を、災害からじっと見つめてきた著者の
記録である。シャープな写真と少しぼかした絵もうまくかみ合っている。  
                   
   20213月 700

 

おうちで楽しむ科学実験 』 尾嶋好美/    SBクリエイティブ 

  ちょっと風変わりな科学実験指南書である。「おうちで楽しむ・・」という
だけあって、家庭で実験したり、作って楽しむものが多く紹介されている。

まずは、〈写真映えする実験〉である。いくつかあるが、「ミルククラウン」
の姿を撮影するのは今はだれにでも出来る。スマートフォンに高速度撮影(スロ
ーとか)の機能があるのが紹介されている。みなさんは知っておられたでしょうか。
その他、ビー玉にヒビを入れるのも美しい。蓄光現象を利用した〈光るジュース〉
も楽しそう。砂糖やミョウバン、尿素を使った飾り物作りもある。結晶作りの実
験につながる。〈動きから目が離せない〉では、炭酸飲料を使って大噴出の実験
もできる。ローソクの火を使ったキャンドルシーソーも面白そう。昔の鹿(しし)威し
(おどし)
だ。〈変化がおもしろい〉では、炎色反応や「歩く色水の実験」もある。色
のついた紙を伝って、色水は次々とビンの上を渡り歩く。クレーターを作ってスマ
ホのスローモーション撮影もできる。ファラデーのろうそくの科学よろしく、炎が
飛び移る実験もある。吸水ビーズを使った手品の実験もある。光の直進性を利用す
る。ベンハムのコマ作りの紹介もある。〈料理は科学〉では、さまざまな料理実験
が楽しめる。「なめらかアイス」を作るのもよし、ラムネ作りもよし。宝石のよう
な色とりどりの「琥珀(こはく)(とう)も作れる。缶詰パイナップルでゼリー作ったり、
昔ながらのポップコーンも作れる。卵の黄身を使うとマヨネーズができる。水成分
と油成分が適度に混合してできるそうだ。まるで、黄身は界面活性剤を入れている
ような作用をする。

 「解説」という項が各所にあり実験事象の科学的な解説がくわしく書かれている。
また、大人向けにさらにくわしい小窓(解説)も付けられている。
小学生でも十分理解できる。 
                        2021 02 1,980

                新刊紹介8月